リレー小説 第12話(そろそろタイトルとか出来ないものかしら)

で、第12話


「急に電車が傾いたかと思ったら」

「うん…それで?」


静かな病院の一室に更なる静寂が訪れる。


「ぴかっと頭というか真っ白になって…そこで意識がなくなったんです」

晃樹がそう言うと2人の背広姿の男―今回の列車事故担当の刑事さんは疲れ切った感じで天を仰いだ。その行動は「またそれか」と、今までの聴取でも似たようなことを聞いてきたんだ、と誰の目から見ても分かりそうなリアクションだった。




「…すいません」

「いや、君が悪いわけではないよ、むしろ被害者だからね、どっちかって言うと酷い部類の」

そう言うのは中年の小太りな刑事だ。非常に気さくでいい人ムード前回の人だ。

「しかしよくあれだけの事故で死者が出なかったすよねー」

それに続くのは長身やせ形の若い刑事。こちらも晃樹は初対面にもかかわらず好感を持っていた。

「ま、不幸中の幸いって事だ。…俺らの仕事も少なくて済む、万々歳だろ」

「そっすね」

そう言って二人は座っていた椅子から立ち上がる。

「…それではおいとまさせてもらおうかな、彼女のお見舞い中にすまなかったね」

「いえ…こちらこそお役に立てずにすいませんでした」

「あはは〜、あたしも楽しかったんで無問題ですよ〜、あの事故の原因調べてるんですよね?あれって置き石じゃなかったんですか?」

「馬鹿っ、そんなこと聞いたって迷惑なだけだろ」

晃樹に小突かれて膨れる比奈乃。そんなやりとりを見て中年の刑事さんはふっと苦笑した。―そして一呼吸置いて口を開く。

「まぁこれは私の独り言なんで聞き流して欲しいんだが…」

「きゃあ♪晃樹クン聞いた聞いた?今の刑事さんの『名刑事さんの言う台詞No.26:独り言と称して事件の概要を話してくれる』だよ!!まさか生きてるうちにそれが聞けるなんてっ♪」

「なんだそれ…しかも26ってそんなにあるのかよ…」

「あ〜るの!!晃樹クン、月刊『そして誰もえりきゅーる・ぽぅ!わろ』読んでないの!?」

「知るか!そんなマイナーな雑誌」

「あー!!マイナー言った!!マイナーって言った!!あのダンサーのマイコゥーとかグラビア出してるんだよ!!」

「あいつか、ワンダーランドつ〜なんかけったいな建物作ったヤツ」

「けったい…晃樹クン…私たち彼氏彼女だけど…いつか貴方と決着つけないといけないみたいね…悲しいね、それって。でも!!運命には抗えないの!!」

「何をとち狂ってんだ、お前は…」

「あ〜コホン…そろそろ独り言しゃべらせて貰っていいかな?」

ほっぺをつねりあったまま視線を中年の刑事のほうに戻す二人。それが独り言の始まり。


「…世間体では置き石って事になっているけど実際は全く分かっていない。そもそも原因の置き石自体が特定できていないし、なにより」

『…なにより?』

「運転手は『何かにぶつかった感じがした』と言っていて、事実列車の先頭部分に何か球体のようなものがぶつかった形跡がある…だが、それがなんなのか。そっちのほうが全くさっぱり分かっていない」

「…ぶつかった?そんなのがあったら普通乗ってた俺たちもっと酷いことになってるんじゃ…」

「その通り。だが死者は0。しかし何故か乗っていた全員が事故直後意識を失っている」

「全員…」

「そう、なんだかSFチックだろ?少なくともワシらももう少しで任を解かれると思うね、不可解な事件はワシら下っ端ではどうしようもない。…とまあ、アクマで独り言ですから…それでは小林君、帰ろうか。じゃあお二人ともお大事に」

「すいません、色々ありがとうございました」

「また面白い話聞かせてくださいね〜」




…ちなみに若い刑事小林は知っていた。
自分の先輩であるこの中年の刑事もあの彼女同様『そして誰もえりきゅーる・ぽぅ!わろ』の愛読者だと言うことを。


―先輩、言いたくてたまらなかったんですね…








                     〜・〜


夜―事故付近の森の中。


誰も通らないような森奥の広場に一見しても地球のものとは言えそうもない大人の両手大ほどの直径をした球体が転がされていた。そこから細々と…だがしっかりと女の声が聞こえてくる。

「こちら――…やっと通信機が直った、修理するための備品の調達に手間取ってしまって…――了解。引き続き調査する」

歳はどう見ても中学生。ギリギリで高校生に見える、腰まで髪を伸ばした少女。通信をしていたのは彼女だった。こんな夜に森付近を出歩いている少女というのはいささか任務を遂行するには目立つかも知れない。この一ヶ月。どこに泊まってもしっくりせず、結局一番寝心地のいいのはこの自分が乗ってきたこの小さな宇宙船だった。かろうじて電源は生きているものの、1月前のこの星の乗り物との衝突によって機能ほとんどが手の施しようが無いほど大破している。通信機だけはなんとかこの星の物質でまかなった。そんな彼女のこの地球にやってきた狙いはひとつ。…とある男の調査。



「イシモトコウキ…私の兄」


顔もモニターでしか見たことのない調査対象である男の名前をつぶやき…彼女は眠りについた。