リレー小説第3話。
―真っ白な光。
ぼんやりとそこから見えてきたのは見たことのある光景だった。
まっすぐな下り坂の先に見える海と街並。
セミの鳴く声。
暑さで揺らめくアスファルト。
ゆっくりと坂道を下っていく二人。
ああ。…ここは。
そう、これはいつも通る学校の帰り道。
右隣を誰かがすっとよぎってゆく。
「彼女」はそのままぴょん、ぴょんと跳ねながら晃樹の前まで来る。
そして下からのぞき込むように晃樹のほうに半身だけ身体を向けて振り向いた。
「…なんだよ」
足を止めぶっきらぼうに言い放つ。不器用な彼にとってこれが必死の照れ隠しだった。
どうも口下手な晃樹は彼女を含め、女に免疫がない。
「今週の土曜日」
それを分かっててあざ笑うかのような彼女の満面の笑顔。
「あたし誕生日なんだ」
初耳だった。
「…急だな」
「えー、あたしの誕生日はその日ってずっと決まってたよ。急だったのは晃樹クンの告白」
「なっ…」
「あはははは!晃樹クン赤くなってる!」
腹を抱えて大笑いする彼女。
それもそうである。あまり話したこともなかった男が偶然二人きりになった途端突然
「好きだーっ!」
…それが一昨日。これを突然と言わず何を言おうか。
「…あはは、笑ってごめんね」
その時も彼女は大笑いしてそう言った。
「だからさ」
完全にこちらを向いて晃樹に向き合う形になる。
「その日に出来ないかな?…初めてのデート」
彼女がゆっくりと彼に手を差し出す。
それにひきつけられるように晃樹も手を延ばす。
二人の手が触れ合った瞬間。
晃樹はまた光の中に飲み込まれていった…
さっきの揺れ…そういえば、彼女―中岡 比奈乃は無事なのだろうか。
それだけが、また薄れていく意識の中で晃樹が気がかりなことだった。